広島大学大学院 |
2009年に「脳死移植を可能とする臓器移植法」の改正が行われ、2010年7月以降は、脳死移植は本人が提供拒否の意思を示していない限りは家族の同意が得られれば認められるようになりました。これによって、日本国内でも法的には15歳未満のドナーの臓器移植を可能となりました。しかし、遅ればせながら行われた法的措置にも関わらず、脳死からの臓器提供は期待したほどには増加していないのが現状です。移植医療に対する社会の理解と制度が欧米レベルに達するには、解決すべき課題がまだまだ山積しております。
ここでは、移植先進国アメリカで描かれた臓器移植をテーマとした印象深い映画作品をご紹介いたします。『7つの贈り物/Seven Pounds』は、2008年にガブリエレ・ムッチーノ監督により製作されました。日本では2009年2月に公開されましたので、ご覧になられた方も多いと思います。ウィル・スミス演じる主人公トーマスは運転中携帯電話に気をとられ事故を起こし、その事故で婚約者と見知らぬ6人を死なせてしまいます。強い呵責の念から、その後出会う7人の生命や生活を救うために、自らの臓器をそれぞれに提供することを目的に生きる様子を描いたヒューマンドラマです。物語の終盤に彼は、余命数ヶ月の心臓病をもつエミリーに自らの心臓を提供しようと接触します。ところが、彼女と時間を過ごす内に互いに惹かれ合います。そして、事故以来はじめて生きる歓びを取り戻しかけた時に、彼女を助けるために残酷にも自らが心臓移植のドナーになる計画の遂行をするのです。
過酷な過去を持つ主人公が、自己犠牲を全うして臓器移植ドナーとなるまでの苦悩を描くこの映画は、ユダヤ・キリスト教的な伝統における贖罪の概念が匂われ、見る人によって解釈は一様ではないと思います。しかし、移植を待つ人、提供を考える人が交錯する中で、それぞれの心理と生活が豊かに表現されていて、それがフィクションとわかっていても、僅かならず心の揺れが感じられるのではないかと思います。『7つの贈り物』に描かれる移植医療は、臓器の公平な分配という点で規定に抵触し、実際にはありえない話です。しかし、アメリカの移植医療が半世紀近く前から国民の理解のもと公明正大な臓器斡旋のシステムに基づき実績を重ね、新しい命や生活を手に入れることのできる医療として社会に定着しているがゆえに発想される物語です。我が国で移植を支援していただいている方々、あるいはこれまで移植医療に関心がなかったという方々が、それぞれどのような感想をお持ちになるのか気になるところでございます。いつか皆様にお会いできる機会がございましたら、ご感想をお聞かせ下さい。
今後とも、我が国の移植医療の発展にお力ら添えをいただけますよう宜しくお願い申し上げます。