東京大学胸部外科(心臓外科) |
2009年7月に臓器移植法が改正され、小児重症心不全患者さんにも国内移植の道が開かれようとしています。しかし、法的に心臓移植が可能となっても実際にドナー心の提供がなければ移植手術を受けることはできません。一方、これまで国内で心臓移植を受けることがほとんど不可能と考えられた10歳以下の小児患者さんに移植の道が開かれるということは、我々医師には患者さん・ご家族に対して「心臓移植によって救命できる可能性」を説明し、インフォームドコンセントを得る義務が生じることになります。
本年度から小児心臓移植登録患者さんは増加していくものと考えられますが、成人患者さんと同等、あるいはそれ以上の待機期間を覚悟しないと小児患者さんは心臓移植に到達できない可能性があります。
私は、これまで東京大学病院と埼玉医科大学病院で8名の15歳未満の心臓移植を必要とする子供さんに成人用の東洋紡補助人工心臓装着手術を経験して参りました。一番小さなお子さんは3歳(体重16kg)でしたが、8名中に東洋紡補助人工心臓の体重限界とされる20kg未満の患者さんが3名含まれておりました。
全員が補助人工心臓手術成功し、心不全や全身の臓器不全を克服した後、全例米国や独逸に渡航されました。残念ながらお一人だけ渡航8ヶ月後に広範な脳梗塞を合併され、移植適応除外となってしまいましたが、他の7名の方は心臓移植に成功し帰国されました。現時点で7名全員が復学し、元気に日常生活を送っておられます。
今後、国内で待機される小児心臓移植患者さんが増加すると考えられますが、現時点で心臓移植へのブリッジに使用できる保険償還可能な補助人工心臓は成人用東洋紡補助人工心臓しかありません。欧米で心臓移植へのブリッジに用いられている植込型補助人工心臓は日本では市販されておりませんし、EXCOR(Berlin Heart 社製)などの小児用補助人工心臓も日本には導入されておりません。
これまで10年間に本邦で実施された心臓移植69例中60例までが移植前に補助人工心臓のブリッジを必要とした患者さんです。移植実施施設の心不全病棟は入院治療が必要な東洋紡補助人工心臓装着患者さんで常に満床であり、私どもの病院でも各地の循環器内科の先生方から補助人工心臓治療のご依頼を頂いてもお引き受けできない状況にあります。これ以上補助人工心臓ブリッジ治療を進めるには、在宅治療が可能な植込型補助人工心臓の臨床導入が不可欠であります。まして、小児の心臓移植が始まった場合、小児移植待機患者さんを何処でどのように治療して長期にわたる移植待機期間を克服するか、想像するだけで頭を抱えてしまいます。
現在、日本心臓血管外科学会より小児用補助人工心臓EXCORを「医療ニーズの高い医療機器」としての認定を厚生労働省に要請しておりますが、早急な臨床導入には多くの困難が予測されております。また、植込型補助人工心臓も平成19年に4種のデバイスが「医療ニーズの高い医療機器」として認定されましたが、平成22年4月の時点で市場にはまだ一つも出て来ていません。私は補助人工心臓治療関連学会協議会(6学会1研究会で構成)代表として、日本心臓移植研究会代表幹事の松田 暉先生とともに、厚生労働省関係各部署並びに小沢民主党幹事長に対して「植込型補助人工心臓におけるデバイス・ラグの解消と新たな機種への適切な保険償還」を陳情してまいりました。
心臓移植待機患者さんを始めとした重症心不全患者さんの生命維持装置である補助人工心臓には、以前より海外との格差、デバイス(医療機器)・ラグといわれる深刻な事態が続にいています。我が国の末期的心不全患者さんの補助人工心臓治療を海外並みにすべく、心臓移植や人工心臓に関係する学会、研究会が協力して要望してきた次第です。また、小児用の補助人工心臓の早期導入についても厚生労働省や国会に働きかけていく必要があると考えています。現在1万人を目標に患者さんならびに関係者の陳情書に対する署名運動を行っています。支援会の皆さん方も是非、この署名運動にご参加ください。署名用紙は日本胸部外科学会ホームページよりダウンロードでき、集めて頂きました署名はFAXで日本胸部外科学会事務局にお送り頂ければ幸いです。
「移植待機患者さんのQOLの高い在宅治療実現のために、小児の移植待機患者さんのために最新の補助人工心臓の早期導入」を皆さんとともに力を合わせて積極的に進めていきたいと考えています。