旭川医科大学 |
「サンクスレター」が生む心の絆
昨年の10月22日に札幌で行われました第18回日本移植支援協会全国大会におきまして講演させていただきました旭川医科大学消化器病態外科の古川博之です。移植支援協会の高橋和子理事長をはじめとして会員の皆様におかれましては、日頃から移植啓発活動にご尽力いただき
誠にありがとうございます。
講演では、移植の簡単な解説と日本で臓器提供が進まない理由とその対策などについて解説させていただきました。講演の最後に脳死肝移植患者さんとドナーの家族の手紙「サンクスレター」のやりとりについてご紹介したのを記憶している方がおられるかもしれません。そのことについて少し触れさせて頂きます。
臓器提供をされた方の家族は、今でも臓器提供をしたことについて親戚や周囲の人たちから心ない言葉をかけられることがありますが、家族にとって何より心のよりどころとなるのは、提供したレシピエントが元気に生活されていることを確かめることができる瞬間、提供した臓器がちゃんと働いていることを確かめることができる瞬間です。ドナーの家族とレシピエントが連絡をいつでも取り合うことができればいいのですが、ドナー家族とレシピエントあるいはその家族が接触することは今の日本では禁じられております。唯一のコミュニケーションの方法は、ネットワークの移植コーディネーターを介しての手紙のやりとりです。多くの場合は、移植直後に多くのレシピエントが感謝の気持ちをドナー家族に送る「サンクスレター」と言われるものです。これによって、ドナーの家族はどんなに心が癒さているかは想像に難くありません。
講演の時にご紹介した脳死肝移植のレシピエントの方とその母親は「サンクスレター」をドナー家族に送ったのですが、その後、ドナー家族から返事が届いたのです。もちろん、コーディネーターを介してですが。よく脳死移植は、生体移植のような絆は生まれないと思われがちですが、脳死移植でも思いがけない絆が結ばれることがあることをご確認いただき、皆様が日頃取り組まれている移植医療の推進が生む絆の尊さを心に刻んでいただくと同時に、ドナー家族にとってレシピエントの中で働いている臓器がどんなに愛おしいものなのかをわかっていただければ幸いです。以下、臓器提供されたドナーのお母様が、レシピエント(女性)とその母親に宛てたお返事をご紹介します
。
「娘は40歳代という若さであっけなくこの世を去っていきました。今でも「ただいま」と元気よく帰ってくる様な思いです。とても信じられませんが現実を受けとめ前向きに生きていこうと思っています。
幸い、あなたとのご縁で娘の臓器が生きている、あなたの体の中で働いていると言うことを孫たちもとても喜んでいます。お手紙を頂いた時もちょうど学校が休みで帰省していました。二人とも涙しながら(サンクスレターを)読んでいました。
どうかお体に気をつけられ、娘の分まで長生きして欲しいと心から願っています。お母様も大変でしょうが、どうか悔いのないように面倒みてあげて下さい。(私は一杯悔いが残っています)どうかお母様も娘さんも病気に負けず頑張って下さい。」(一部抜粋)