NPO日本移植支援協会

専門家の意見

星野 健 先生

東京女子医科大学病院
消化器外科臨床教授
江川 裕人 先生


2013年

脳死移植の現状
 まず、脳死の方から臓器をいただくときには、肝臓、そして腎臓が2人、そして膵臓、肺、心臓で通常6人の患者さんを助けられます。それを、心臓以外の移植を生体で行うと、肺は二人から右左いただくので、6人の生体のドナーが手術を受けなくてはいけない。これまで多くの生体肝移植に携わってきましたが、生体移植がなくなる世の中にしたいと思い、ドナーの啓発を、移植学会や日本臓器移植ネットワーク(JOT)の役員もさせていただいていて、お手伝いしています。

 脳死の方からの臓器提供の流れは、最初に、患者さんが救急病院に運ばれます。全力で適切な救急医療にもかかわらず、薬石効なく脳死と考えられる状態になられます。この時点で病院の方、看護師さんであるとか、主治医の方、あるいはこのごろは院内のコーディネーターという職種、あるいは役割の方がおられまして、その方がご家族に、コーディネーターが「臓器提供に関するお話を聞かれますか」というふうに伺います。そこで「聞きたい」とお返事をいただきますと、東京の溜池山王にあるJOTの本部へ連絡が入り、全国どこへでもすぐ彼ら、彼女らが飛んでまいります。そして、家族に説明をして、意思確認をして、承諾書をいただくことになります。その後、法的脳死判定が始まります。すでに脳死の状態ですが、臓器移植のための法的な判定というのが2回、成人では6時間あけて行います。脳死の判定が終了すると、ネットワークからレシピエント、移植を受ける患者さんの選定が行われ、移植施設に連絡が入ります。

 例えば、東京大学の駒場太郎さんが肝臓で1位ですということになりますと、ネットワークが東京大学の移植外科へ連絡を入れます。そして、そこで患者さんに主治医から、あるいはコーディネーターから最終意思確認をします。それから患者さんは病院に来て、臓器摘出のためのチームを派遣します。

 2010年に脳死法が改正されました。日本では親族に対する優先提供が定められています。ただし、配偶者、親子にのみで、死因が自殺の場合は優先提供に行われません。脳死判定と臓器摘出には、改正前は、本人の生前の書面による意思表示と家族の同意の両方が必要でした。改正後は、書面による提供の意思表示がなくても本人が書面で否定していない、あるいは生前に拒否の意思を表示していない場合は家族による承諾のみで臓器摘出が可能になりました。年齢も、15歳未満の方からも家族の同意で臓器提供ができるようになりました。

 子供からの臓器提供は、肝臓の場合は生体肝移植と同じように、脳死の成人の肝臓を移植することができますが、心臓と肺は胸郭という入れ物の制約があるために、大人の心臓も肺も赤ちゃんに入りません。子供からの臓器提供が可能になったことで、子供さんが海外に心臓移植を受けに行かなくてもいい時代が始まりました。

 さらに、改正法では、普及啓発活動をすることが定められました。ことしから大多数のタクシーの後ろにも普及啓発のシールが張られるようになりましたし、運転免許証の裏にも、あと健康保険証の裏にも書くようになりました。
 改正前、1999年の2月から2010年の11年の間に86例あったのが、2年で92に増加しました。世界のレベルからいうと少ないのですけれども、日本の中で11年分が2年で提供されるようになったというのは非常に大きな進歩です。
 改正前は生前の書面による提供意思が必要でした。改正後は、家族の同意だけで臓器提供になったというのが半分以上になりました。これは世界の趨勢でもあります。

 小児からの臓器摘出に関連して、虐待を受けた子供からは臓器は摘出しないことが定められています。虐待の有無をしっかり見定めるシステムづくりが議論されています。
提供施設の要件には、倫理委員会が機能していること、脳死判定を行う体制があること。小児の場合は、虐待防止委員会とマニュアルが整備されているということが求められています。小児とくに6歳未満の子では、一度目と二度目の脳死判定の間隔が大人より長くなっています。成人の場合は6時間の間隔をあけますが、6歳未満の子では24時間以上あけて、判定が覆らないということを確認します。小児では低体温で脳の活動が著しく落ちるということで、直腸温35度未満を除外といった細かい規定があります。血圧も脳死判定時の収縮期血圧というので、子供さんは低いところで判定します。しかし、12週未満は脳死の判定が困難であるという理由で脳死判定から除外されます。 

レシピエントの選択基準を、心臓、心肺、肺、小腸、肝臓、腎臓、膵の臓器別に示します。心臓を見ていきますと、血液型は基本合わせるか、O型の臓器をAやBに入れるのは「適合」というのですが、一応一致。OをAとかBとかAB、あるいはAをAB、BをABに入れるのを「適合」といいます。体重のサイズと肺の場合は胸郭の大きさに関する規格。感作というのは、例えば妊娠をすると子供を身ごもることで夫のHLAに対する抗体を持つことがあります。あるいは、輸血をすることで感作を受けることがあります。これまでの経験の中で、感作を受けた人に、その感作の対象となっている抗原を持っている臓器を移植すると強い拒絶反応が起きるということがわかっています。心臓と肺では、感作を受けていないか、感作があってもそのドナーに対する抗体を持っていないことを最終的に確認して移植をします。現在、肝臓ではこの点は考慮していませんが、最近、強い感作は危険である報告が増えてきて今後考慮されるようになると思います。ただし、肝臓の場合、リスクが高くなるといっても心臓のように死に直結するわけではないので、肝不全が重篤な場合、救命という観点から、リスクを冒して移植をするということがあります。そのほかに、サイトメガロ、HLAの型といったものを調べます。

 選択基準の優先順位は、心臓の場合は医学的緊急度、そして年齢では子供さんが優先されます。さらに、血液型を合わせて、あとは申し込んだ順番。肺の場合は血液型、待機時間、肺の胸郭、そして術式という手術処置。心肺移植、小腸、膵、それぞれ表に示します。第一条件に血液型が来る臓器と、医学的緊急度がくる臓器があります。医学的緊急度というのは非常に漠然とした言葉ですけれども、下段の心臓と小腸の緊急度のようにちゃんと決め事に則り、順番を付けます。
 移植数は、2012年の7月現在で、肝臓では、この時点で402人の登録があり、153人は無事に死体移植が済みました。待ちながら亡くなった人が600人、幸いに生体移植ができた人が275人、渡航が29人。取り消しというのは、劇症肝炎などで内科が頑張って治して移植せずに済んだというような人たちです。腎臓の数は、累計で3万6,284人。腎臓で登録しながら亡くなった方も2,000人です。

各臓器移植成績
図1は国際心肺移植学会の統計と日本の成績です。海外の成績は10年生存率は53%ですが日本は数は少ないけれども96%です。10年超えて亡くなった方は胃がんが原因です。日本の心臓外科や心臓内科の先生たちがいかに丁寧に見ておられるかということです。
 図2は肺移植です。これは日本肺移植研究会からいただいたものです。肺は生体肺移植があり、2人の方から半分ずつ提供されます。ちょうど100人です。脳死肺移植の患者さんと比べて統計的には差はありませんが、生体のほうが良いように見えます。肺の先生に伺ったのですが、違う2人からもらうので拒絶反応になったときに片一方でカバーが効くから、生命予後がいい。予備があるということです。

 図3の膵臓移植は、生体膵というのが20例近く、行われています。御存じのように膵体尾部を取る手術というのは容易ではありません。脳死提供が可能になって今はほとんど生体は行われていません。
 図4の腎臓は、living donor (生体)とheart beating (脳死) と non heart beating (心停止 つまり 献腎)の成績を示しています。日本での成績のなかでは、献腎はに少し差があるのですけれども、でも世界中のレベルからすると全く遜色はない。心停止の場合の虚血によるダメージが加わっても海外の脳死移植と同じ成績を出しているという事実が、日本の腎移植の高いレベルを示しています。

 図5は日本の脳死肝移植と生体5,653例の成績を比べたもので、全く一緒です。
以上より、地道ながら皆様の努力で数はすくないけども世界トップレベルの脳死・死体移植成績を達成しています。このすばらしい医療技術で一人でも多くの患者さんを救う為に、今、必要なのはドナーを増やすための啓蒙と体制整備です。日本移植支援協会のご支援と今後のご活躍に期待します。

   
   
   

Back