国立小児病院 |
移植医療といわれると非常に特殊な医療を連想されるのではないでしょうか?僕は移植とその他の医療、治療とは基本的に全く同じだと思っています。患者さんはなぜ病院に行って医師の診察そして治療を受けるのでしょう。悪いところを治してもらい、元気になるために医師に相談するのだと思います。医師は的確に診断し、その患者さんの状態に一番適している治療法を選択します。
治療法が一つでは無い場合は、患者さんに説明して最終的にその状況にあった最も良いであろうと思われる治療法を決定します。100%完璧な治療法などなかなかないのですが、その中から一つを選び出していくのです。そういうプロセスで”移植゛という治療法が選び出されます。もちろん移植は、移植の手術だけでなく、手術前もそして手術後も大変な治療法です。でも、それ以上にメリットが大きいと判断された時に選ばれるのです。
“基本的に゛同じと書いたのは、移植医療はある特殊性を持っているからです。それは臓器を提供してくれる人(ドナー)がまず第一にいないとはじまらない治療法なのです。例えば腎臓、肝臓、肺、小腸のように提供者が生きていても移植可能な部分生体移植も、脳死状態からの移植も、提供者がいないと成立しないのです。普通の治療・手術は「この方法でやりましょう。」と決まれば、極端にいうと医療側のペースで勧められますが、どのような移植でもドナーの存在なしには成り立たないのです。そしてドナーから提供された命が、新しい命になって生きていくのが移植という医療なのです。
総理府は今年(平成12年)8月26日に、5月に行った「臓器移植に関する世論調査」の結果を発表しました。対象は全国の成人男女3000人を対象とした面接方式です。その中で、移植意思表示カードを所有し、常時携帯して記入されてる割合は、全体の4%でした。僕は、個人が移植を肯定するか否定するか、特に自分がドナーになるかならないか、という問題は、医療側が決める問題では無いと思っています。そして医療サイドの義務としては、移植そのものそして移植医療とはどのようなものなのか、どういう欠点および利点があるのか、を広く説明し理解してもらうことだと思っています。
そして、個人個人が移植を考える機会を持ち、それぞれの人生観、倫理観に基づいて移植医療を受け入れるか受け入れないか、ドナーになるかならないかを公平な立場で判断してもらえるようにいていかなくてはと思っています。そうした基盤がしっかり出来て、はじめて移植医療が根づき、広がっていくのではないでしょうか。日本の中で、今はもうひとりひとりが、他人事としてではなく移植を考える時なのです。